海の響きを懐かしむ

観たもの聴いたもの読んだものの記録と、日記など

極端なのもいいけれど

空飛ぶタイヤ
さざなみの日記 (講談社文芸文庫)

ずいぶんさぼってしまっていた。

研究室の先生がおすすめしていた池井戸潤さんの空飛ぶタイヤを読んだ。分厚いけれどサクサク読めて、帯の文面のとおり、半日で一気読みした。リコール隠しというテーマを、(特に私のような)社会的な物事に関心が低くなりがちな学生でも追っていけるように描いているのはすごいなと思った。前半で、結末が多少みえてしまったところもあるけれど、それに向かってぐいぐい引っ張ってくれたので気持ちよく読めた。あと登場人物の何名かが、性格的にちょっと単純すぎ?とも思ったけれど、それでもたくさんの人間たちの深いところ、それぞれの立場と役割で、苦悶や懊悩が伝わってきた。おすすめです。つぎは、下町ロケットかな。


幸田文のさざなみの日記は、戦後の比較的裕福な後家の女性とその娘、女中の3人を描いたお話。前半ちょっと退屈だったけど、後半になると物語がうねりはじめて、このあたりの構成は「きもの」とおんなじだなーと思った。結婚するということが、昔ほど重すぎもせず、かといって決して軽くもなく、不思議な圧力で女の人生にのしかかってくる様子の描写が、よかった。

それから食事に関して、手間ひまかけて料理を作ることが豊かな行為と言えるのか、おいしいお惣菜を買ってきてゆっくりいただくこともある意味豊かさだ、みたいな文章があって、やっぱり森茉莉を思い出した。正しい満足のためには消費を厭わず、手間を省くことへの、精神的な、それでいて嫌みのない余裕をこのふたりにはとても感じる。誤解を恐れずに言うと、自分と似た者どおしかもって、思ったりする。思考回路が似ている気がして、安心できる。でも文さんが茉莉さんと違うのは、母であるということで、親子や家族へのまなざしがとても暖かい。恋愛に対する、揺れるような価値観も。

もっとも恋の感情なしにいくらも結婚は成立するでしょうが、恋もしない結婚なんか緋緒子はいやです。つまらないんですもの。こうしてみると私は打算的ですね。結婚の対手と恋をしたいらしいからです。云いかえれば、結婚という安心のできる裏打をしておいてから恋がしたいのだとも云えます。(中略)恋なんて本来は恋一本立ちであるべきで、結婚も約束も二の次のものでしょう。でも、私にはそういう激しさはそぐわないようです。