海の響きを懐かしむ

観たもの聴いたもの読んだものの記録と、日記など

午後3時

冥土めぐり スリリングな女たち


はじめての鹿島田作品は、成熟してる、と思った。日が経って、ところどころ腐っていそうなフルーツを食べながら、そのじっとりした甘さを享受するような感じだった。
「冥土めぐり」も「99の接吻」も、どちらも他人の欲望の観察を通して、主人公が自分の物語を拾い集めていくのだけれども、前者は、旅行を通じて主体が移動する(空間的な広がり)のに対して、後者は文京区という小さな箱の中で話が展開する(時間の一過性)。


それから、鹿島田真希をやっと読んだので、「スリリングな女たち」に手を付けることができた。(彼女の他に、本谷有希子綿矢りさ金原ひとみ島本理生柴崎友香、6名の作家の文藝評論が収められている)
とはいうものの、著者の優しい手で分解されている小説たちはほとんど読んだことのないものばかりだった。記号論的な解釈はなくはないけれど、こじつけじみた暑苦しさがまったくなかった。主人公の"女"たちが運用する文体の、かすかな変化を逃さずに観察してくれていて、原文を知らなくても楽しめる。元の小説が果物や洋菓子ならば、まるで食後に澄み切った熱い紅茶を飲んでいるような気分になれる。

わたしは姉さんの美しい魂に触れて驚く。いつか見た、煙草を吸って、Sの前で不良のように振る舞っていた姉さんとあまりにも違うことに驚く。何故、こんなにプライドの高い姉さんが、あんな男に恋してしまったのだろう。わたしには信じられない。(『99の接吻』「冥土めぐり」P.128 河出書房新社