海の響きを懐かしむ

観たもの聴いたもの読んだものの記録と、日記など

教習所のこと

大学2年生のとき、教習所に通っていた。その教習所は大きな公園のそばにあって、校内で無線LANが使えるというだけで決めた記憶がある。まだiPhoneを買う前だった。アクセスが悪いので、近くのターミナル駅から出ている送迎バスを使っていた。


建物は古臭くて、今どき珍しく目に見えるものすべてが昭和だったことを鮮烈におぼえている。授業はOHPベースだったし、生徒が座る席にはそれぞれ赤と緑のボタンがついていた。昔はそれを使って、クイズ形式で授業をしていたらしい。教室に人がパンパンに入っていたからこそできる授業スタイルだったんだろう。いかにも80年代の発想っぽい。当時から、もうこんなに昭和を体感できる場所は、日本にそんなにないだろうなあと思っていて、妙に気に入ってた。

それから、カフェ、なんてとても呼べないような、喫茶というか小さいレストランがあって、そこではエビピラフのセットをよく食べた。これはあんまりおいしくなかった。

入り口のすぐ横に喫煙所があるのも昭和感があった。そこでたまに煙草を吸った。ちょうどいまくらいの時期、秋のはじめに教習所に入って翌年の1月に卒業したのだが、よく喫煙所の椅子に座って、季節がやうやう暮れてゆく様を眺めるのが好きだった。


路上教習でも、公園のそばを通ったとき、ゆるやかに蛇行するカーブを下って行くときの景色がきれいだった。
バックミラーが反射してその後にまだ緑の葉っぱがちらと映って、ああ、夏の残り香だななどと思っていた。



あと、一度だけジャガーを運転したことがある。高速教習で。

普段は小さい普通の乗用車で教習していたのに、なぜかその時だけはジャガーだった。いま考えても謎だ。バブルの名残だったんだろうか。結構長い距離を、横浜のベイブリッジ付近まで走った。湾岸地域をジャガーで、なんて書くと聞こえはいいが、実際は私とインストラクターのおじさんと、もう一人の30歳過ぎのサラリーマン男性の3人で、行きと帰りでわたしとサラリーマンが交代して運転した。


ジャガーとはいえ、ハンドルはもちろん右だったんだけど、ものすごく重かった。
でも、ブレーキを踏んだとき、ふだんの教習車だといちいちかっくんかっくんするけど、
ジャガーはなめらかにスッと止まってくれて、さすがだなあ、と思った。


その日はすごく天気のいい秋晴れで、走りながら、
となりに座っているのがおじさんじゃなくて、若い男の子だったらなあとか思っていた記憶がある。



そのころは、はっぴいえんど矢野顕子だけを毎日聞いていて、本はほとんど読んでいなかった。大学には通っていたが、まじめに人と関わってしていなかったように思う。ほとんど記憶が無いのだが、教習所でのできごとは不思議な感触を持ってわたしの中に残っている。何も特別なことはなかったのだが。


ちなみに1年ほど前に、たまたまその教習所の前を通ったら、他の教習学校に吸収されていた。建物は新しく立て替えられて、あの昭和の面影はまったくなくなっていた。


深い意味は無くて、たんなる思い出の話でした。