海の響きを懐かしむ

観たもの聴いたもの読んだものの記録と、日記など

私の中では三島由紀夫と松尾スズキは何かの間違いで男に生まれてしまった女ということになっている

 

お嬢さん (角川文庫)

 

『お嬢さん』、とてもおもしろかった。エンタメに徹してはいても、そうとは割り切れないくらい繊細な、残るものがあった。いままで読んだ彼の物語のどれより楽しかった。

 
これは微妙な瞬間で、かすみには、生まれてから父との間にこんなにきびしい選択の瞬間を経験したことがないように思われた。父は微笑をたたえて、待っていた。そこでかすみが椅子から立上ってついて行けば、少くとも父親の愛情にこたえるやさしい娘になれたことだろう。しかしそれは明らかな妥協であって、問題をあいまいにするだけだった。彼女は根の生えたように、じっと沢井のかたわらに坐りこんでいるべきだった。(『お嬢さん』三島由紀夫、角川文庫、P.144)