海の響きを懐かしむ

観たもの聴いたもの読んだものの記録と、日記など

『愛と死』

先日、祖父と祖母がいっしょにでかけるところに遭遇した。秋晴れの休日の昼間だった。母と私は買い物に出かけようとして、車に乗り込もうとするところだった。


「駅まで送っていきますよ」


という母に対して、脚の悪い祖父は「いい、いい、バス停までだからいい」と頑なに拒んだ。プライドの高い祖父は、ずいぶん脚を悪くした今でも杖をついて歩こうとしない。祖母は、おじーさんは私がいないとだめだから、といつも笑う。


車が発進して、角を曲がると、小さな人間が二人寄り添って歩いているのを追い越した。それを見た母は、



仲がいいわねえ



とぽつりとこぼした。そのとき、



仲良き事は美しき哉



という一言が脳裏をよぎった。



それからしばらくして、祖父の書斎から引っ張りだした『愛と死』を読んでみたけれど、やっぱりわたしには合わないと苦笑するばかりだった。純粋すぎるのだ、どうしたってもう一歩深い闇のようなものが覗き見たいと思ってしまうの。安吾が「あの海のうねりにまかれたい」と言ったみたいに。龍のように天に上り詰めていく愛は確かに美しいと思えたのだけれど。

愛と死 (新潮文庫)