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海の響きを懐かしむ

さみしくはない

二〇一四 インターネットの届かないところで

『第80回西荻ブックマーク 『戦後出版クロニクル』編集会議 この本は見逃せない! 1970~2010』

西荻窪にトークショーを観に行く。
中央線自体が久しぶり。最近だと、中央線に乗る時は、何かしらのカルチャーイベントに行くときばかりだ。



会場について

ビリヤード山崎

会場は『ビリヤード山崎』という創業85年のビリヤード場。もう外観からしてディープ。

開始から少し遅れて行ったら、扉を開けても誰もおらずビビる。青白い蛍光灯が3本ばかしチラチラとしているだけの無人のビリヤード場、昭和臭が半端じゃない。数秒して、階段の存在に気づく。上がっていくとすでに30人弱のお客さんがいて、登壇者の挨拶が始まっていた。


イベントについて

イベントの趣旨としては、夏葉社という出版社*1が、「戦後70年の出版物から1年ごとにベスト本を選んで紹介」する本を出版するにあたり、編集者やジャーナリストのゲストが自身が重要と思う本を持ち寄って紹介するというものだった。

あまり何も考えずに申し込んだイベントだったので、趣旨やゲストのプロフィールを着席してから知る。仕切りは南陀楼綾繁*2さん。今年か昨年読んだ『出版業界最底辺日記』で編集をされていて、それでお名前を覚えていたので、いきなりご本人を目の前にして驚く。客層は、40代以降が多めの印象を受けた。20代は数える程度だったかな。

ひとりずつマイクを回して、順繰りに本を紹介していくが....前半(70年代、80年代)は、少し辛かった。予想していたことだけど、当然生まれる前の出来事や文脈についての思い出話に軸がブレがちなので、そこを共有できないと辛い。話題に登る作家や本の3割くらいはなんとか聴いたことがある、くらいのレベルで、それでも当時の空気感とか本に込められた情報の密度が語られることで、やっとおもしろいと感じた。



Webが届かないところ

当たり前だけど、Web以前の時代のことはまだ全然Webには載っていない。本とか、レコードとか、家電とか、なんらか物質を介して、やっとその人の中で、かつての時代のことが"検索”されて語られ始めるように思う。いいとか悪いとかでなく、ワールドワイドウェブの届かない知について考えを巡らせた。

ゲストの推薦本は、予め印刷されてお客に配られていたのだけれど、「インターネットにはアップしないでください」とアナウンスがあり。出版前の本の編集会議、というイベントの趣旨の都合上、同意せざるを得ない一方で、21世紀をアップデートできないことの悔しさも感じた。

おもしろかったのは、林真理子のデビュー作*3の話題がのぼった時、ゲストの中でも一番年下の方が、キョトンとして「ルンルンって何ですか」と問うていたところ。その素直さが少し笑いを誘っていて、他のゲストに「ルンルン気分って意味なんですよ」と解説されていた。あの、キョトンという空気感。個人的にはイベントの最大の肝だと思った。

私たちは過去を知らなくて、時代に感じる濃密さみたいなものも20世紀に比べたらきっと薄い。フラットに疑問を発することで生きていくのが賢いのだろうか。



編集という技術

『朝日人物事典』(朝日新聞社編 朝日新聞社 1990年刊)という本が紹介されていて*4、これがすごい、すごいと話題になっていた。人物だけが載ったWikipediaというところか。Wikipediaと違うのが著者が思想系の巨人みたいな人ばかりで、内容も単なる人物紹介ではなく小さな評論みたいになっているという。紙の辞典、検索性が悪すぎるし字も小さいし重いし好きじゃないけど、これは確かに一冊欲しいなあと思った。

編集、という行為について認識を改めることが、最近多い。歴史に平伏すというと大げさに思えるけど、昭和の時代から培われてきた編集出版の技術というのはやはり堅牢で、そう簡単に潰れるものではないなと。テキストに起こす編集だけじゃなくて、生のトークにおける”文脈を探る力”みたいなものって、ものすごく説得力を持つのだなとゲストの話を聞いていて思った。*5

これだけ一次情報に溢れた世界で、未だに外部情報とうまくつきあえない若輩者として、少しだけ敗北感を味わった(今日に限ったことじゃないけど)



さいごに

いろいろと書いたけれど、濃密で楽しいイベントだった。なにはともあれ、もっと浴びるように本を読もうと思った。本じゃなくてもなんでも、一度この身体を通過したものは必ず血と肉になる。思い出せないだけで、必ず残る。いまはまだ、盲目的に量をこの身体に注ぎ続けたい。

*1:夏葉社

*2:南陀楼綾繁 (@kawasusu) | Twitter

*3:Amazon.co.jp: ルンルンを買っておうちに帰ろう (角川文庫 (6272)): 林 真理子: 本

*4:この本についてはあらかじめ告知サイトで案内がされていたので、書名を出している

*5:ただ、 Geekなぺーじ:IT系の編集者・雑誌・記者・ライターが激減している というような話ももちろんあって、編集技術というもののアウトプットが書籍ではなくなっているのではないかと、個人的には思う