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海の響きを懐かしむ

さみしくはない

ぼやき

人生は小さな決断の連続で、そのGOサインの連鎖が、大きな物語を作っている。

それなりに考えて生きているつもりだった、まだやれることはきっとあると思うし、これまでこの皮膚が浴びてきた膨大な時間は全部わたしのものだとわかっている。それなのに近ごろは、食べたいものですら、わからなくなることがある。決断のエンジンが霞んでいて、よく見えない。


この土日は、住んでいる街から一歩も出なかった。八百屋服屋本屋薬局喫茶店、ひととおりなんでもすべてが完結するこの小さい世界で、自分が迷っていることに気づいてしまう。でも迷えるということは、選択肢があるということ。私は私の金が許す限り何を食べてもどこへ行ってもいいのだ、これは画期的なことかもしれない。自分のペースでためらうことができる。仕事はためらいを許さないが、生活はそれを許容してくれる。自由だと感じる。でもひとりでいると、時間に限りがあることを忘れそうになる。昨日見かけた桜は、明日は雨にさらされて違う姿になっているだろう。


いま住んでいる家のそばには坂道がある。けっこう急な坂だ。無心で上っていると、見える景色がずんずん違っていく。隣町のビルや鉄道、そして青空が見える。古今東西の歌や物語において、丘に登ったり坂の上に立ったり見下ろしたりすることは、いつもどこか神聖な感じを想起させる。遠くのものをみるだけじゃない、いつものそれを、上から見つめること。

今よりも高いところに行きたい。今までとちがう景色を見てみたい。そう思ってもう一度ウルフを手に取ってみた。


灯台へ (岩波文庫)

灯台へ (岩波文庫)