海の響きを懐かしむ

観たもの聴いたもの読んだものの記録と、日記など

角川文庫『春琴抄』(谷崎潤一郎著、山崎ナオコーラ解説)

春琴抄 (角川文庫)

春琴抄 (角川文庫)


夏の文庫フェアが始まりました。私にとっては桜や紅葉などと同じ、いやたぶん、もっと個人の物語として季節を感じられるできごとの一つです。本屋を徘徊するのが趣味なのですが、この時期、明るい色のポップや、アニメやタレントとのタイアップポスターが展開された売り場にいるだけで心が踊ります。永遠の夏が来た、と感じます。


キャンペーン用に刷られた文庫サイズの冊子は、必ず持って帰って眺めます。掲載されている本の大半は買うことはないし、正直興味が薄いものも多いのですが、出版社が用意した祭りにひっそりと加担していると思うと楽しくて仕方がありません。中でも気にしているのが、『こころ』や『人間失格』といったお馴染みの作品のスペシャルカバー本です。欠かさずチェックして、毎年どれかは買い求めます。


過去に太宰治×梅佳代コラボ*1や、生田斗真の美しいポートレートによる太宰作品ジャック、そして近年稀に見る大傑作キャンペーンである2013年の「新潮文庫の100冊」などがありました。それらについては、かつて熱い思いを日記に書いたりしていました。


しかし個人的には、ここ2〜3年のスペシャルカバーは不作気味と感じています。新潮文庫はカバーが厚めの無地の紙になっただけで芸がないと感じるし、角川文庫に至っては、ここ数年テキスタイル+イメージ色、というテンプレートができてしまい、それらの変更のみにとどまっています。それに何より!!!タイトルラインナップに!!!冒険心が感じられない!!!!


だいたい各社とも、1軍に漱石・太宰・芥川の3強が揃い、2軍に三島・安吾・谷崎・灰谷・壺井栄宮沢賢治あたりが入れ替わり控えるという布陣です。しかしそれらの中にしれっと、「え!こんな本をスペシャルカバーで!?」というような、意外性があって欲しいのです。


前述の新潮2013だと、星新一江戸川乱歩あたりは、本のセレクトとカバー写真の組み合わせという意味でもかなり攻めていました。なんていったって「江戸川乱歩傑作選」で真っ赤っ赤なスイカのどアップです。爽やかでありつつも不気味で、夏のミステリー感がほとばしっています。また同じ太宰でも人間失格やメロスではなく『女生徒』が選ばれたり、松山ケンイチの『ヴィヨンの妻』なんてものもありました。写真は夜、タクシーに乗る松山ケンイチの横顔です。これで『ヴィヨンの妻』。痺れます。


  


だんだん回顧になってきましたが、続けます。今日は給料日ということもあり、性懲りもなくまた本屋さんに行き、角川スペシャルカバーの『春琴抄』を購入しました。もともと買う気はなかったのに、山崎ナオコーラさんの素晴らしい解説に惹かれて買ってしまいました。ちなみにこれで『春琴抄』は3冊目です。どうかしているよ。でも、これまで新潮文庫が打ち出してきた、「赤の谷崎」のイメージを鮮やかに覆し、さわやかな水色を配置したことは評価したいと思います。それにまだ6月24日の時点で、今年の「新潮文庫の100冊」はまだラインナップが発表されていません。どうか予想の上を行く素敵なヒットをお願いしたい。私は何なんだ。


しかし積極的にどうかしていきたい。フェアは、本を読むという行為を社会に肯定してもらえるような気さえしてくるので良いです。読むことで自分の物語が紡がれるという感覚が強くなるのです。大げさだけどね。


*1:これは冬のキャンペーンだけど、まあ良い