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海の響きを懐かしむ

さみしくはない

海になりたい

いつからかすっかり駄目になってしまった。毎日育てていた野菜の苗はなぜか全部枯れてしまった。毎週月曜に駅前の花屋で買っている花束もすっかりだ。ある時食事をしていたら、花瓶の中の百合の花がまるごと、根本からぼとっと落ちてきたのには吃驚した。触ってみると花びらは厚みがあって、雄しべは粉がまだたっぷりついていた。生きたまま死んでいる。百合のバラバラ死体である。いや、バラバラ死体というより、百合の投身自殺のほうがいいかもしれない。とにかく、その潔さに思わず息を漏らした。


昔流行った歌に「海の底で物言わぬ貝になりたい」という歌詞があったけど、貝というのは、他者がいて初めてその存在を確認できるものであるように思う。食べてくれる鳥や魚とか、拾ってくれる人とか。海の底の孤独な貝というのは、なんだか未練がましい。死ぬならあの百合の花のように死にたい。もしくは、ミレーのオフィーリアでもいい。潔く溶けて沈んでいく、私は海そのものになりたい。


本当はもう、何もしたくない。本を読むのも正直嫌になった。私の根幹を支えていたはずの骨が、ふにゃふにゃと崩れていって、あとには何にも残らない。それでも他にすることがないから惰性でページを捲っている。兎角に人の世は住みにくい。


草枕 (新潮文庫)

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