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海の響きを懐かしむ

さみしくはない

溺れるナイフ

gaga.ne.jp


ほとんど公開が終わっているので諦めていたところ、池袋で13日まで上映しているとのことで、急いで観に行ってきた。思っていた以上にとても良かった。観れて幸せ。正直レンタルかSVOD落ちしてからでもいいかな、と思っていたけど、劇場で見なければここまで良いと思わなかったと感じる。


まあ兎に角、画面が美しい。主演の二人を美しく撮ることに全ての神経が注がれており、絵画を観ているよう。と言ってもアート映画ではなくて、爆発する(≒溺れる)少年少女の不安定さときらめきが、これでもか、と幾度も波のように押し寄せてくるので、眩しすぎて、もう最後の方は耐えられなくなっていたほど。ほとんど閃光にちかい。


(こっからややネタバレ)





ただ不満な点も幾つか目についた。まず、セリフが聞き取りづらいのがとても気になった。役者の問題というよりも、整音が悪い気がした。特に前半が酷くて、何言ってるか全然わからないカットもあった。


またストーリーの重要な要素として、レイプ(未遂)が取り扱われているが、そういう事象を扱うには些か軽率である感じがして、結構癪に障った。これは原作がそうなっているから、仕方ないのであろうが・・・。


とにかく主人公の小松奈々演じる夏芽が、若く、美しい少女であることが、すべての始まりと終わりの原因となっている。つまりこの作品はファム・ファタルものなのである。冷静に考えると、恐ろしいことが起きている。徹頭徹尾、世界は夏芽という女の美しさによって廻っており、そのために何人もの男が狂わされ、ある者は死ぬ。夏芽はその業を背負いつつもなお、世界をかき乱し続ける。


マジで尋常じゃないが、あまりある美しさによってその凄惨な様子は見事にカバーされ、すんなり受け入れられるほど、こちらも納得してしまう。小松さんの演技は確かに残念だけど、もうどうでもよくなる。また脇役の重岡大毅上白石萌音のふたりがしっかり固めていたのもよくて、嵐が吹き付ける木造の家を支える、土の下の地盤みたいな安定感があった。菅田将暉に至っては良すぎて言葉も出ない。


山戸結希監督の作品は初めて観たけれど、同世代ということで気になっている人であったので、まじまじとその才能に圧倒されることができて、本当に幸福と感じた。映画というよりも演劇に近いように思う。特に冒頭、夏芽とコウが出会うシーンなどは、シェイクスピアかと一瞬思ってしまうくらいドラマティックだった。


「女性ならではの感性」みたいな言葉は好ましくないが、ああいう演出は女の子の生き様を深く理解していないとできないと思う。「恥ずかしくない」のである。青春映画を観ているのに。むず痒くなるときが一瞬もなかった。これは、すごいことだと思うのだ。


終わりに近づくに連れてどんどん観念的になっていくので、人を選ぶとは思うけれど、結晶化された美意識の中に身を置く歓びに溢れた2時間だった。大森靖子さんの歌がちょこちょこ挟まるのも良かった。