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海の響きを懐かしむ

さみしくはない

年末年始「雪」の読書(アンナ・カヴァン『氷』、谷崎『細雪』など)

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫) 氷 (ちくま文庫) 雪国 (新潮文庫 (か-1-1))

細雪 (上) (角川文庫) 細雪 (中) (角川文庫) 細雪 (下) (角川文庫)

年末年始


忙しくて読書を2ヶ月ほどやめていたのだけれど、昨年末ころから余裕が出てきて、年末年始から積読していた本をちびちびと読んでいる。最近また、文芸を読むのがしみじみ楽しいと感じるようになった。


以前にお友だちから頂いていた『ハローサマー、グッド・バイ』は、品のよい甘さのSF青春恋愛物語で楽しませてもらった。読了後もSFな世界観を引っ張りたかったので、以前広島で購入したアンナ・カヴァンの『氷』を続けて読む。SFのような、幻想文学のような、不気味で不思議な小説で、ぐいぐいと引き込まれる。


せっかく氷の世界まで来たのだから、と、昨年末には、およそ10年ぶりに『雪国』を再読。ラストの火事の場面しか覚えていなかったけど、改めて読んでみるとたしかに、日本語が端正で美しい。ぬめぬめした水の底が、ほのかに光っているかのように、うっすらと寒気を感じさせられる。

細雪


年が明けて「雪といえば」と、谷崎の『細雪』が未読であったことを思い出し、久しぶりにゆっくり彼の日本語を味わった。谷崎文学は大好きであるがゆえに、読む度に未読作品が減ってしまうのが惜しくて、ちびちび少しずつ読み進めている。角川文庫版の『細雪』は、かまわぬスペシャルカバーになっていたので、それも良かった。『春琴抄』のようなドラマティックさよりも、なめらかに流れる線のような小説で、谷崎の『陽』の部分をいっぱいに堪能することができた。



特に印象に残ったシーンについて、書き記しておく。


三姉妹とその家族の、京都での花見の場面(上巻)
桜と、その下に立つ姉妹の姿が、目に見えるよう。とても美しい。この文章は、本当に心からその土地と、人を恋うる気持ちがないと書けないと思う。この小説の中でも屈指の名場面。


病気になった妙子を幸子が見舞いに行く場面(下巻)
この箇所だけ、『陰』の谷崎の文章になっていると感じた。幸子は、久しぶりに会った妹が寝込んでいるのを見て、病気による精神の消耗だけでなく、肉体的な退廃を感じ取る。この描写がえらく淫靡なので、不意を突かれてドキッとした。会話もなく、ただ病人を見るだけのシーンなのに、これだけみだらなイメージを喚起させられるのは、すごい。


女中のお春どんが、内緒でたばこをのむ場面(下巻)
とても短い、1・2行のシーンなのだけれども、なぜか印象に残った。この小説は、主役の姉妹を中心としながらも、その脇の人々が、いちいち愛嬌ある様子で書かれているのも良かった。


またなんといっても幸子の夫・貞之助がいちいちナイスな男なので、ぐっときた。ささやかな事件が起きる妻と義妹たちを見守りつつも、べたつかない距離感で寄り添っているのが、この上なくイケメン。



悲惨な戦争の影を感じさせながらも、それを前面には出さず、滅びゆく美しい日常が表現されているあたりは、『枕草子』を連想させた。